疲れて死んだように眠りについてから、どれだけの時間が経ったのか。目が覚めたら近くで物音がした。人の話し声に、途絶えていた意識がハッと引き戻された。 「ッー！？」 　驚いて目を覚ますとベッドの脇に黒色の小さなラジオが置かれていた。ラジオからは天気予報が流れていた。 　その瞬間、何もないこの世界(へや)に僅かな希望の光が見えた。今まで無音に近いような部屋の中で一人で居ると、何度も気が狂いそうになった。でも、今は違う。音のある世界がどれだけ救いになるのか、それは言葉では言い現せないくらいの感動や感激に近かった。 自分しかいない世界ほど虚しいものは無い。音があるだけでも外の世界との繋がりを感じた――。 「ふふふ、くくっ、ッ…――！　ッハハハハハ！」 　様々な感情が胸の中で一気に駆け巡ると、俺はラジオを胸に抱き締めて涙して笑った。そして、壊れそうな心で呟いた。 「ッハハハハ、俺もやれば出来るじゃねーか……！　アハハハッ！　クククッ！！」 　ラジオの代わりに、アイツに自分のプライドを売った甲斐があった。仮面の野郎はイケ好かない奴だが、約束は守る男だと感じた。 正直、これは賭に等しかったがアイツはちゃんと約束を守った。様々な感情が胸の中で駆け巡ると不意に抱き締めたラジオを手から離して、そしてスピーカーから流れてくる天気予報を聞いた。 季節はいつの間にか10月になっていた。アイツに拉致られて監禁されてから、ちょうど3週間くらいが過ぎたようだった。 知らない間に過ぎていた時間と季節の流れに俺は一人取り残されていた。そして、その間に色々と失った苦痛と痛みだけが、鮮明に記憶に刻まれて残っていた。 　少しづつ汚されて最後はもぬけの殻になるのをアイツはジッと、待っているんだと思った。蛇のように絡みついた束縛に俺は少しづつ侵食されて最後は―――。 「って、たまるかよ……！　俺は絶対アイツ何かに押し潰されてたまるか…――！！」 磨り減った心を奮い立たせて、アイツの支配から俺は必死に逃れようとした。そうでなきゃ自分が奴に押し潰される。 　まだ『希望』はあるに違いない。そう心の中で強く願った。そしていつの日か、父さんや母さんや兄貴やリンの元に帰るんだ。絶対アイツの思い通りになんかさせてたまるか…――！