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支配者

「――さあ、これで綺麗に顔を拭こう。可哀想に、これじゃあ可愛い顔が台無しだ。誰がこんな酷いことを……」 そう言って不意に呟くと彼の側に立った。そして濡れたタオルで彼の顔を拭こうとした。悠真は、その言葉に息を呑んで凝視した。 何故なら自分がさっきしたことをまるで他人事のように話したからだ。そこにマトモじゃないことが伺えた。そして、その壊れた人間の狂気を目のにしたのだった。 悠真は頭から血を流し、顔はシチューのスープで汚れていた。もはや抵抗すら出来ないほどの精神状態だった。  テーブルに頭を無理矢理叩きつけられて、頭がガンガンした。そんな傷ついた彼の姿を見ながら男は他人ごとのように接した。仮面の男は悠真の顔を濡れたタオルで綺麗に拭いた。そして、そのタオルは血とスープの染みで汚れた。 全 身が痛みと疲労感で今にも倒れそうなほど、弱り始めた。極めつけは頭のイカれた男と一緒にいることだった。  悠真は体中が汚れた。そして、気力も既に体力も限界だった。なかなか終わらない『悪夢』に、このまま自分の頭がおかしくなれば楽だった。 もはや抵抗すら出来ないほど体が弱っていくと、悠真は仮面の男にされるがままだった。彼の汚れた顔を綺麗に拭くと、食事をしようと再び話した。そして、新しいお皿の上に温かいスープを注いだ。 「――さあ、スープを淹れ直したから食べなさい。今度はちゃんと食べてくれるよね?」  そう言って離れると汚れたテーブルの上に再びスープが入ったお皿を置いた。悠真はその言葉に息を呑んだ。そして、震える手でスプーンを手にした。  

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