190 / 217

―現在―(そして…)

 冷たい床の上で肌を重ねて、お互いの存在感を確かめ合うと彼の背中に爪を立てて、切なく喘いで求めた。さっきとは違う優しい扱いに彼の腕にしがみついて『もっと僕を壊して下さい』と懇願し。激しさと切なさの間で愛は情熱の炎のように燃えた。そして、二人は深く愛し合うと静けさが漂う部屋に切ない吐息が漏れた。やがて再び冷静に戻ると、広瀬は彼の隣で不意に話した。 「ねぇ、教授……」 「何だい?」 「あの曲……あの曲、素敵ですね」 「ああ、月の光は私の好きな曲さ。あの静寂で、柔らかなメロディが良いだろ?」 「はい……!」 「あの曲を聴くと心が落ち着くんだよ」 「教授はクラシックが好きなんですね?」 そう言って彼に寄り添うと瞳をジッと見つめた。 「クラシックはあの子が好きだったからね。月の光の曲も…――」 「あの子? 教授……?」 彼は一瞬、懐かしむように呟くと広瀬の方に視線を向けた。彼の瞳は何故か寂しそうに見えた。  

ともだちにシェアしよう!