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―現在―(そして…)

「教授。何でそんな悲しそうな瞳をして……」 そっと彼の顔に触れると広瀬は不思議に尋ねた。 「さぁ、そろそろ帰るよ。キミが私といつまでもこうしていたい気持ちが名残り惜しいのはわかるけど、夜もふけた頃だしね」  そこで話を反らすと、彼は立ち上がって傍を離れた。そして、脱いだ服を着直した。白衣に袖を通すと広瀬の方を振り向いて、黙って黒い眼鏡を手渡した。 「教授……。あ、いえ。なんでもありません…――」  彼から眼鏡を受け取ると床から起き上がって、脱いだ服を着て顔に眼鏡を掛けた。そして、背中を向けている彼に何気なく視線を向けると『また今度、教授が好きなクラシックの曲を僕に教えて下さい』と言って呟いた。 「ああ、構わないよ」 「ありがとうございます……!」  彼の一言に素直に喜んだ。 「広瀬君、キミは純粋だね」 そう言って彼の前に立つと唇を指先でなぞった。 「今度、私が一人の時に来なさい。その時に教えてあげるよ」 「教授……」 広瀬は彼の怪しげな眼差しに魅力されると、体を熱くさせて顔を火照らした。 「ええ、また必ず……」 身も心も奪われた様子で恍惚していると、ハッと我に返った。  

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