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―彼女―
「――橘さん?」
「え?」
近くで突然、名前を呼ばれると彼女は顔を上げて見上げた。目の前には眼鏡を掛けた黒髪の男性が立っていた。カナは驚くと声を上げた。
『あっ、悠真君のお兄さん…――!?』
慌ててベンチから立ち上がると、持っていた紙パックのジュースを地面に落とした。克哉は本が入った袋を小脇に抱えて現れた。そして、それとなく話した。
「キミ、悠真の同級生の橘カナさんだよね?」
「っ……!」
克哉に聞かれるとカナは焦って動揺した。
「えっと、私その……!」
「さっき学生の子が此処に居る事を教えて貰ったんだ。ちょっと話ししてもいいかな?」
「ご、ごめんなさい…――!」
そこで気が動転すると、彼女は克哉の前から走り去ろうとした。
「待って、この写真に写ってるのは君だろ!?」
咄嗟に持っている写真を彼女に見せると、カナは驚いた顔で思わず振り返った。克哉は必死な顔で呼び止めると腕を掴んだ。
「頼むから少しだけ話をさせてくれないか?」
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