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―彼女―
克哉が真剣な目で彼女の腕を掴んで話すと、カナは動揺しながらも立ち止まり。黙って再びベンチに座った。
「……ありがとう」
彼は隣に座ると感謝の気持ちを伝えた。カナはさっき見せられた写真に戸惑った。そして、落ち着かない様子で下を俯いた。
「君さ、あの時。俺の事を遠くから見てたよね。こないだの雨の時も。もし何か知ってたら教えてくれないか?」
「私、その……。あの時はホントにごめんなさい。急に走って逃げたりなんかして。別に冷やかしで貴方を見てたわけじゃないんです。ただ私も彼の事が心配でずっと気になってたんです。学校にも家にもずっと帰って無いって聞いてたから――」
「そうだったのか……」
「こないだの雨の時も、失礼な事してすみませんでした。私この近所に住んでるんです。あの日は買い物帰りに偶然、貴方を家の前で見かけてそれでなんとなく……」
カナが素直に謝ると克哉は少し状況を理解した。
「ああ、そうだ。この本だけど返すよ。君が前に落とした本、雨に濡れたから同じのをまた買っておいた」
そう言って真新しい本を手渡すと、彼女は驚いた顔で申し訳無さそうに頭を下げて受け取った。
「そんな、わざわざすみません……!」
「いいって。それよりこの写真の子は君だろ?」
彼から写真を見せられると彼女は素直に頷いた。
「……はい、そうです。悠真君とは、同じ小学校の同級生でした。でも、良くわかりましたね?」
写真を見ながら不思議そうな顔で答えると、克哉は不意に話した。
「俺もあの時は忘れてたけど、あとで思い出したんだ。それで写真を見て君だと分かった。ずっと前に一度、家に訪ねに来ただろ。覚えてる?」
カナは一瞬、その時の事を思い出した。そして頷いた。
「ええ、私もあの時の事は何となく覚えてます。彼に学校でくば割れたプリントを渡しに、悠真君の家に行きました。それで家の前で学生服を着た克哉さんに会いました。随分と昔の事なのに今も覚えてるなんて変ですよね?」
「……やっぱり君だったか。見た目も雰囲気も大分変わったけど、何となくそんな気がしたんだ。今だと見違えるくらいの素敵で綺麗な女性になったね?」
そう言って話す彼の隣でカナは照れた。
「もう、冷やかさないで下さい……!」
「冷やかしてないさ。本当の事だよ」
「あ、有難うございます…――!」
彼の有りのまま言葉に恥ずかしそうに俯いた。
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