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―彼女―

「――時が経つのは本当にあっという間だね。あの時、赤いランドセルを背負った君がこんな綺麗な女性になるなんて悠真もビックリだろうな。覚えているのは別に悪い事でも、変な事じゃないさ。それは自分自身の記憶の一部だからね。俺も君が家の前に居たのは覚えてるよ。風邪をひいた弟にわざわざプリントを届けに来る女の子は正直、珍しかったからね。よほどの事が無い限りじゃ……」  克哉にその事を言われるとカナは顔を赤くした。彼はそう言って隣で優しく笑った。 「弟(アイツ)は男友達は多かったけど、女の子の友達はあまりいなかったみたいだったからさ。あの時は家までプリントを届けに来てくれて有難う。弟に代わって礼を言うよ」  「いえ、私は別に……! ただ、家が近かったものですから…――!」 「君は優しいね」 「私、悠真君に前に聞いたんです。『俺には、年の離れた見た目も正反対の兄がいる』って。本当にその通りでした。だって何だが……」 「ああ、良く言われるよ。似てない兄弟だって。俺達は昔から仲が悪かったから、周りにそう見て思われても仕方ないと思ってる」  そう言って彼は寂しそうな顔で俯いた。 「ごめんなさい、急に変な事言っちゃって……!」 「別に構わないさ。本当の事だから。でも、これでも少しは前より良くなった方かな。家にいた時はほとんど、兄弟らしい的もな会話はしなかったからさ。それが俺達は、当たり前だと思ってた。同じ家に言って話さないとか変な兄弟だろ?」 「そんな事無いですよ。私もたまにお姉ちゃんと喧嘩したら、口を訊かない時とかあったし。別に普通だと思います……!」  彼女なりにフォローすると克哉は瞳を閉じて、静かにふと笑った。 「俺の方こそごめん、初対面なのこんな暗い話しして。でも、有難う。少し気持ちが楽になったよ――」 「いいえ、私で良ければ……」  カナは彼の中にある、何処か悲しげな瞳が気になった。 「弟と同じ大学に通ってるんだ。悠真とは、友達なの?」  彼の質問に彼女は考えながら答えた。 「はい。悠真君とは良く話します。でも、私より仲の良い人はもっといると思います。彼って結構人気あるんですよ。明るいし、話してると楽しいし、きっと性格が良いからだと思います……!」 「そう、弟は学校では楽しくやってたのか。電話じゃ、そう言う話しとかしなかったから。いつもどんな感じで過ごしてたかイメージが湧かなくてさ、アイツが楽しくやってるなら安心した」 克哉は自分の知らない所で、弟が普段どのように大学を過ごしていたか気になっていた。彼女の話しを聞いて、兄として弟の事を思う一面を見せた。カナは隣で自分が知ってる彼の話しを色々としてあげた。   

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