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―彼女―

「――ありがとう橘さん。すこしだけど、弟の事が分かった気がするよ。悠真は他に何か、話してたかい?」 「そうですねぇ……。とくに変わった話しとか無いですけど。時々、悠真君はお兄さんの話しもしてました」 「どんな?」 克哉が不思議そうに聞くと、彼女はその時の事を思い出しながら話した。 「――大分前の話しになるんですけれど、みんながいる時に誕生日プレゼントの話しをしてました。お兄さんに赤いバイクを買って貰ったとか……」  彼女の話しを聞いて克哉は思い出した。あの時、電話越しで話した弟との誕生日での会話を。二十歳を迎える時に、サプライズで驚かせようと思い買った赤いバイクを悠真は何故か一度も乗らなかった事を――。  その事を思い出すと克哉は隣で苦笑いをした。 「アレか……。そう、前に誕生日プレゼントで俺が弟に送ったんだよ。でも、本人は欲しくなかったみたいでさ。余り嬉しくなかったみたいだった」  その話しにカナは驚いた。 「えっ、そうなんですか……!? 悠真君、喜んでましたよ! 自分の誕生日にお兄さんにバイクを買って貰ったって友人達の前で嬉しそうに話してたの見てました!」  彼女からその事実を聞かされると、克哉は少し驚いた表情を見せた。そして『意外だな』と彼は呟いた。 「弟はそのバイクには乗らなかったんだ。きっと恩着せがましいと思われたかも……」 「そんな事はないと思います。悠真君もお兄さんからのプレゼント喜んだと思いますよ。私のお姉ちゃんなんか、誕生日の時に良いのくれないのが多いし。その点バイクだなんて凄いですよ!? それを聞いてた男子も羨ましがってましたし、私が思うに克哉さんは良いお兄さんだと思います。ただちょっと不器用な所があるのかも知れませんけど、もっと自信を持って下さい!」  カナはそこで思った事を言うと、隣で彼を励ました。その言葉に克哉は驚くと考えさせられた。 「そうか、自信か……」 「そうですよ! それにいきなりのプレゼントに悠真君も動揺しただけかも知れませんし、本当に要らなかったら突き返すと思いませんか?」 「……そうだね、君の言う通りかも知れない。カナさんのお陰で弟と向き合う自身が持てた気がするよ」 彼女の言葉に励まされると克哉は『ありがとう』と言って静かに笑った。   「――弟は他に何か話してなかったか? 例えば、悩み事とか……」 「いえ、とくにそう言った話しとかはしてませんでしたね。居なくなる前も普段通りでしたよ」 「そう……」 カナはそこで思い出しながら克哉に話した。彼女の前では、彼は普段通りだった。とても自分から居なくなるような様子が無かった事に少なからず違和感を感じていた。    

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