207 / 217

―彼女―

「宝物…――」  何気ない言葉を聞いた彼女は、そのまま黙って隣で話しを聞いた。 「あの、悠真君はあれから家に帰って来てますか…?」 「いいや、それがまったく帰って来てないんだ。バイト先や大学にも来てないみたいだし。それに携帯の電源もずっと切ったままになってるんだ。弟がこんな馬鹿なことをするとは思えないんだ。ましてや家族に心配をかけるなんてアイツらしくもない」 「お兄さん……」 「――これは俺の推測だけど、もしかしたらプライベートで何かが起きて。何もかもが嫌になって、自分から一時的に、失踪した可能性もあり得る。でも、それはアイツに限って考えにくいことだと思っている」  深刻な話しにカナは隣で考えた。 「もしかしたら何か事件に巻き込まれた可能性は無いですか? 家にも帰らずに。大学にもバイト先にも来てなくて、誰も彼の事を見てなかったら不自然に思いませんか……?」 「ああ、君の言う通りだ。俺も本当は何か事件に巻き込まれたんじゃないかって思ってる。でないとこれは不可解過ぎる」  克哉は彼女の前で正直な胸中を打ち明けた。  

ともだちにシェアしよう!