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―彼女―
「ありがとうカナさん。こんな話に付き合わせて申し訳ない。でも、君に話したら何だか励まされたよ」
「いいえ、私は別に…――! ただ悠真君が居無くなって心配するご家族の気持ちを思うと、本当に早く見つかって欲しいと思います……!」
彼女は照れながら話すと、顔を俯かせて前髪を触った。克哉は優しく笑うと『君は本当に良い人だね』と言って席を立った。
「色々と話を聞かせてもらってありがとう。そろそろ失礼するよ。君に教えてもらった人に、もう一度電話を掛けてみる」
彼はそう言うと彼女の前から立ち去ろうとした。するとカナが一言声をかけた。
「あっ、あの…――! 私、趣味でアクセサリーを作ってるんです。自分の作った物とかSNSで良くアップしているんですけど、もしもお兄さんが良ければ弟さんの情報集めに私も協力してもいいですか?」
「え……?」
突然の彼女の申し出に克哉はそこで考えた。
「ありがとう。でも、君に迷惑がかかるかも知れないから気持ちだけで充分だよ」
「私、迷惑だなんて思ってません……! 彼の為になるなら私やりたいんです! それに早く無事に帰って来て欲しいのは、本当の事です! 事件か事故かも分からない状況で警察も当てにならないなら、SNSで情報を呼び掛けるのも一つの手だと思います…――!」
カナは思い切った事を話すと真剣な目で話した。
「貴方達に迷惑はかけません。私にも、捜索する手助けをさせて下さい。私やりたいんです。彼の為になるなら、どんな事もします……!」
「――聞いても言いかい。どうしてそこまで、弟を探すのに協力してくれるんだい?」
克哉は不意に彼女に尋ねた。するとカナは震えた声でスカートをギュッとさせて俯向いて答えた。
「あっ、あたしには大事な『友達』ですから……。それに彼には昔、助けられました。クラスで地味で浮いてた陰キャな私に、初めて声を掛けてくれたのは彼でした。それで自分を変えるきっかけを貰ったのも、彼のおかげです。それに沢山の勇気を貰いました。今いる私が此処に居るのも悠真君に出逢えたからです。だから今度は私が彼を助けたいんです…――!」
そう言って真っ直ぐな思いを彼に打ち明けた。カナの直向きに思う、弟の気持ちに克哉は静かに頷いて答えた。
「ありがとうカナさん。君の気持ちは分かった。そこまで弟の事を心配してくれるのは、凄く有り難い。悠真も本当に、良い子に巡り会えたみたいだな」
「えっ、いえ……! わ、私はそこまで良い人でもないですよ。私は単に本当に彼の事が心配で」
「ああ、分かってる。でもありがとう。君の気持ちは素直に嬉しいよ」
克哉は彼女の頭をそっと撫でた。
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