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お隣りのツワブキさん②
智裕の家の隣に住む、石蕗 拓海 さんと娘の茉莉ちゃん父娘 だった。去年の秋に越してきたばかりで、父子家庭ということもあり松田家とは既に深く交流していた。
(相変わらず…ちょー綺麗な人ー…。)
智裕が拓海に見惚れていると、いつのまにか茉莉ちゃんは拓海に抱っこされており、智裕は解放されていた。
「ほら、まーちゃん、智裕くんにバイバイは?」
「あいあーい。」
茉莉ちゃんは無邪気に小さな手を智裕に向けて振った。智裕は一瞬だけほっこりとしたが、次の拓海の言葉で自身の今の現実に引き戻された。
「あれ?智裕くんはお家に入らないの?」
「え?あー……えっとぉ、ですねー……入りたいんですけどぉ……入れないんですよねぇー。」
「……鍵、忘れたの?」
「ご名答ですぅ。そんで夜まで誰も帰って来ないんですよーあはは。」
智裕は後頭部をクシャクシャとしながら笑い飛ばした。心の中は不運で泣いている。すると拓海はニコリと笑う。
「じゃあ、誰か帰って来るまで、うちにおいでよ。」
「へ?いいんですか⁉︎」
「でもまーちゃんが散らかしちゃってて片付いてないんだけど。」
「ぜ、全然!大丈夫です!屋根と壁があるだけでありがたいです!」
「ふふ…じゃあ入って入って。」
智裕は通学用のリュックを片手に持ち、茉莉ちゃんと拓海に続いて玄関に入って行く。
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