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お隣りのツワブキさん③
ドア、壁の色、間取り、全て自分の家と同じなのに全く違う部屋に迷い込んだように見渡した。
玄関にはグシャグシャにクレヨンで描いた奇妙な絵が3枚飾られ、雑多な松田家とは対照的で物が少なく、全体的にスッキリしていた。
「おじゃましまーす……。」
「どじょー!」
「あ、どうも…。」
茉莉ちゃんは恐らく「どうぞ。」と智裕を歓迎してくれたようだった。拓海は荷物をダイニングテーブルに置くと、茉莉ちゃんを捕まえて洗面所に向かった。
「まーちゃん、お家に帰ったらおててを洗いましょうねー。」
「あーい!」
「智裕くんも、手洗いしてね。」
「あ、はい。」
智裕は家ではよほど汚れていなければやらないが、1歳児がいるとこうやって習慣付けさせているのだろう、と智裕は感心した。手を洗うと、智裕は茉莉ちゃんと一緒に子供向け番組を見ながら遊んだ。
記憶のある中でこんな経験は殆ど初めてだった。弟の智之がこれくらいの年齢の頃にこうして遊んでやったことは無いに等しかった。智裕も遊び盛りで弟なんて眼中になかったのだと、何となく自分の愚かさに後ろめた気分になった。
「ああうー。」
「えっと…あ、ありがとう。」
「あーと!」
茉莉ちゃんに次々とオモチャを渡される智裕はどうしていいかわからず彼女にされるがままだった。するとキッチンの方から香ばしい匂いが漂ってきて、同時にポケットに突っ込んでいたスマホが持続的に振動した。
スマホを取り出し画面を確認すると、母からの電話だった。
「もしもし?」
『あ、智裕?ちょっと今日職場のみんなで飲みに行くことになっちゃったのよー。』
「はぁ⁉︎帰り何時になるんだよ?」
『10時くらいかしらね。』
「親父も今日接待じゃねーか!」
『もう高校生なんだから自分の夕飯くらいなんとかしなさい!出前とか取っていいわよ。』
「そーゆー問題じゃなくて…。」
『火の元には気を付けなさいよー。』
ブッ…
「は?もしもし⁉︎おい!オフクロ!……なんだよ、もう切りやがったよ。」
愕然としていると、茉莉ちゃんが同情的に智裕の頭を撫でる仕草をした。しかしそれではとても彼への慰めにならない。
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