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お隣りのツワブキさん④

「智裕くん、お母さんから電話だった?」 「あ…聞こえちゃいました?」  智裕はバツが悪そうに声をかけてきた拓海に応える。茉莉ちゃんはずっと智裕を「ヨシヨシ」としている。 「えっと、オフクロもすっげー遅くなるとかで、夜中になっちまうみたいなんですよーねー……。」 「え……っ?」 「でもツワブキさんち、茉莉ちゃんの寝る時間とかもあるでしょうし、そんな長居出来ませんよね。ちょっと友達の家とか掛け合ってみますよ。」 「よ、良かったら…今日はウチに泊まりなよ。」  智裕は間抜けな顔をした。だけどもこの拓海の申し出は今の智裕にとっては神の救いだった。数秒後に眉を下げて感激する。 「ホントに?」 「う、うん……着替えも、布団も1組あるし……。」  拓海は恥ずかしそうに下を向きながら話すが、今の智裕にはそれを気に留める隙がなかった。思わず立ち上がって、先程の茉莉ちゃんのように拓海に抱きついた。 「ツワブキさん…!貴方は俺の命の恩人です天使様です救世主様です神様です!」 「そ、そんなの大げさだよ……い、いつも松田さんには、お世話になっているし…ね?」 (ツワブキさん、本当に一児の父親かよ。何か甘い匂いするし、その辺の女子より細いんじゃね?なんか妙に……。)  「ムラムラ」という単語が頭を過ぎった瞬間、智裕は「わあぁあ!」と叫びながら拓海を引き剥がした。抱きつかれた拓海は顔が熱くなっていた。 「ご、ごめんなさい!急に!超嬉しくてつい…。」 「だ、大丈夫!まーちゃんで慣れてる、から…。」  1歳女児と17歳男性の差では苦しい言い訳だった。拓海は少し息を整えると、一保護者としての毅然とした態度をとる。 「うちに泊まること、ご両親に連絡しておいてね。きっと心配するだろうから。」 「わ、わ、わかりました。」  智裕はすぐにスマホの入力を始めた。しかし彼の心臓はまだうるさい。 (ムラムラとかおかしいだろ!いくら美人さんでも同性なんだからさ!……でも今時そういうのカンケーねーのかも…いやいやありえねーって!今日の今日でそんなん無理だろ!)  智裕の百面相に気がついたのは茉莉ちゃんだけで、それを見ながら「キャッキャ」と嬉しそうに笑う。智裕は何がおかしいのか分からなかったが、茉莉ちゃんにヘラヘラと合わせて笑う。

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