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お隣りのマツダくん①
去年の秋口に、石蕗 家は引っ越してきた。
拓海 は業者に荷物を運んでもらう前日に、両隣と真下の住人に菓子折りを持って挨拶に向かった。
自分の家の右隣では、40代くらいの女性が対応した。
「明日となりに引っ越してきます、石蕗と言います。」
「あらー!また随分と若くて綺麗な人ねー!」
少々パーマのかかった、所謂 普通のオバちゃん。
「あー!」
拓海が抱っこ紐で抱えていた娘の茉莉 はそんなオバちゃんを見るなり、ヘラヘラと笑い出した。
「あらまぁ…可愛いわねぇー!女の子?」
「ええ、茉莉っていいます。」
「しょうなのー。まちゅりちゃーん。」
「きゃー!」
茉莉はすっかり楽しくなっていた。
「うちにも子供2人いてね、高校生と小学生。どっちも男でむさ苦しいったらありゃしないわー。」
「そうなんですね……。」
「何かあったらいつでも頼って頂戴ね。力仕事だったらうちのバカ共でも出来るからね。」
「え…。」
「この子、ママいないでしょ?最近入ってくる若い子って片親ばかりなのよ。だから困ったら遠慮することはないわ。」
あっけらかんとした彼女の言葉が当時ボロボロだった拓海を救った。思わず泣きそうになったが堪 えた。
「あれ?お客さん?」
拓海の背後にブレザーを着崩して、右耳に1つだけピアスを開けた高校生くらいの男が立っていた。
拓海は振り返って彼を見る。
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