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ツワブキさんとの蜜月⑤
そして登校すると予想通りの展開だった。
意外だったのは、クラスの誰一人として軽蔑の言葉を並べないことだった。
「しっかしまさか団地妻と付き合えるとはなー。羨ましいぜこのやろー!」
「いや俺が言うのも何だけど男の人だぞこの人。」
人が離れていってもおかしくない状態なはずなのに、変わらずに揶揄 われて笑って祝福されている。
「宮西くんから写真見せて貰ったけど、すっごい美人さんだしね。」
「そうそう、松田には勿体ないよね。」
「こんな美人いいなぁ。」
女子を中心に賞賛の声が出てくる。
「というか写真⁉︎おい!宮西!どういうことだ!」
「ん。」
智裕は近年のスマホの高性能、高画質を恨みに恨んだ。
バッチリ、今朝のお別れキッスがドラマのように撮られていた。自分のスマホを確認すると、クラスのグループ通信で既に流されていた。
「ま、松田くん……。」
「な、何?増田 さん?」
クラスでは割と大人しくていつもクラスの馬鹿騒ぎを見守っている文芸部の女子、増田さんが智裕の前に立って声をかけてきた。
「おめでとう。これ、貸してあげるね。」
「あ、ありがとう……。」
渡されたものは本屋さんのビニール袋だった。中には2冊の本が入っているようだった。
智裕はそれを取り出して中身を確認する。
「……社長にご奉仕……禁断の……。」
パラ、パラ、パラ
「ああぁぁぁぁぁだあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」
「それでいっぱい勉強してね。」
「あ、増田さん、それ今日私に貸してくれるやつじゃないの?」
「うん、ごめんね、高梨さん。」
「許す!」
高梨優里 と増田琉璃 、クラスで最強の腐女子コンビだ。
「おーい、今日全校朝礼らしいから行くぞー。」
今の智裕にとっては救いの掛け声。問い詰めの輪はバラバラになる。
「松田、とりあえずおめでとさん。」
「お、おう……助かったぜ、江川 っち。」
クラス委員の江川一起 は相変わらず爽やかな笑顔で智裕の背中を叩いた。
そして智裕も立ち上がって体育館に向かうことにした。
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