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マツダくんは常に災難(11)

 通話を切り、スマホをジャージのポケットに突っ込む。  外は少し寒そうなので長袖のシャツに着替えて、子機を持ってダイニングへ向かった。 「星野先生どうしたのよ。なんか慌ててた感じだったけど。」 「何か懇親会で、た…石蕗さんが呑まされ過ぎてダウンしたんだと。ほっしゃんが送ってるから部屋まで運ぶの手伝えって。」 「あらー、お酒弱いのねー石蕗さん。」 「ま、運んだらすぐに帰るけど…。」  子機を充電器に置いてダイニングを出ようとした時に母は唐突な提案をする。 「石蕗さん心配だから、あんた今晩ちゃんと看病してあげなさいよ。何かあったらすぐに救急車とか呼ぶ人が必要でしょ?」 「……な、な、なんで俺、が?」 「あんたこの前、家の鍵失くした時に石蕗さんにご迷惑かけたでしょ!看病くらいして恩を返しなさいよー。」  母が正論過ぎて反論出来なかった。  そして同時に忘れかけていた夕方の若月とのやり取りが鮮明に蘇る。  そうして記憶をグルグルと巡っている間に母はスーパーの袋に未開封のミネラルウォーターと二日酔いや吐き気に効く市販の薬、栄養補助食のゼリーをパッケージしていた。 「はい、ここにとりあえず薬とかあるから。」 「…お、おう。」 「石蕗さんにはウチは茉莉ちゃん明日は何時まででも預かれるからゆっくり休むように言っておきなさいよ。」 「わ、わかったよ…。」  ダイニングを出て智裕は一旦自室に戻った。チラリ、と自分のスクールバッグを見る。 (ほっしゃんのあの言い方だと拓海さん結構ヤバい状態っぽいよな。親父もたまに酔っ払って帰って来た時とか風呂場でずっとオエオエ言ってるし次の日は「二度と酒飲まねー」とか言いながら寝込んでるし。少しは飲める親父がそんなんだから飲めないだろう拓海さんはもっとしんどいだろう。だから寝かせなきゃいけないんだけど、こんな乱れられるチャンスはあと何年も巡ってこないだろ。すげー自然な流れで拓海さんと2人で一夜を共に出来るんだぞ。ヤるなら今日しかないだろ、マジで。やりてーやりてー超やりてー!)  ド●キの不透明の袋からボトルと箱を出し、母に渡されたビニール袋に入れ、自室を消灯して玄関を出た。  どうせ戻るから、とその袋を石蕗家のドアノブにかけておいた。

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