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ツワブキさんの本能⑦

 これで石蕗家には2回目の訪問となる。 「んー…ともひろくんの、においするぅ…。」 「あ、拓海さん、起きた?ちょっと待ってて。」  拓海を背負いながら智裕はパチパチと電気スイッチを入れて、家の中を明るくする。そして1番奥のリビングにたどり着くとソファに拓海を下ろした。  雑に横たわった拓海は、明るい場所で見ると顔色が予想以上に悪かった。  着ていたシャツのボタンを3個、ベルトを外し、革靴と靴下も脱がせて締め付けのないようにさせる。靴を玄関に置いて、靴下も空になっている洗濯機に放り込み、リビングに戻ると拓海はソファから降りて下を向いていた。  智裕はすぐに駆け寄った。 「拓海さん!気持ち悪いの⁉︎」  智裕の声かけに反応すると、拓海は深く頷く。  智裕は拓海を肩で支え、トイレに向かう。間取りが一緒なので迷わずたどり着く。  そして拓海は、我慢していたものを一気に吐き出した。智裕は必死に拓海の背中をさする。  「はぁ、はぁ」と苦しそうに息をする拓海を見ることが辛かったが、10分くらいして拓海も落ち着き、意識はハッキリとしてきたようだった。 「シャワー……浴びてくる……。」  拓海はフラフラと自力で歩き、風呂場に着の身着のまま入っていく。  バタン、と浴室のドアが閉まる音がしたので智裕はトイレの現状復帰をすることにした。クリーンシートで床と便座と便器をしっかり拭いて水に流し、ついでに便器の中も塩酸洗剤とトイレブラシで掃除し、最後に消臭スプレーを吹きかけて終了。  玄関に置きっぱなしになっていた荷物をリビングに持って行き、なんとなく散らかっていたおもちゃを片し、カーテンも閉める。  母から持たされていたゼリーと水を冷蔵庫にしまっていると、浴室からガンと大袈裟な物音がした。 「拓海さん⁉︎」  智裕はすぐに浴室のドアの前に駆けつけドアノブを手にかけるが、開けること躊躇(ためら)ってしまった。 「拓海さん、大丈夫なの?手助けいる?」 「うぅ…う、う……うぅ…。」  拓海は浴室で泣きじゃくっていた。その声を聞いた途端に智裕はドアノブを下げて中に入った。 決して広くない浴室で、丸くなっていた拓海がドアとぶつかった。上手いこと入り込んだ智裕はシャワーのぬるま湯でずぶ濡れになった。 「なんで服着たままシャワー浴びちゃってるの!」 「うぅ……だって…だってぇ……。」 「いや怒ってるわけじゃないんだって……さっきからどうしたの?」 「お、おれ……すっごい、や、だったの…に……せんせ…に…さわ、られて……きもちわるくて……こわくて……ともひろ…くん…いなくて……うわぁあん!」  拓海は意識が戻って思い出してしまったことで我慢していたものが決壊したダムように溢れていた。  星野が詳細を黙ってくれていたことに智裕は感謝をした。聞いてたら月曜日に停学になるかもしれない。 「でも、ほっしゃんが助けてくれたんでしょ?」 「うん……ほしのせんせ…めいわくかけた………こんな、じゃ……ともひろくんにきらわれちゃうよぉお…!」 「そんなんで俺拓海さん嫌いになんないし!てゆーか拓海さん被害者でしょ!」  まるで子供をあやすように智裕は拓海を落ち着かせようとする。いい加減邪魔だったのでシャワーを止めた。ポタポタと雫が落ちていく。  智裕は手の平で顔を拭って視界がクリアになったら、今の状況がとんでもないことを認識した。

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