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ホシノ先生の回顧⑤

「自分のことを見失ったらさ、自分が思い遣っていた人たちを悲しませる結末だって有り得るからな。」 「………先生って、テキトーなアメフト野郎だと思ってたけど、俺たち凄い見透かされてますよね。」 「それディスってる?」 「尊敬してますよ。」  天に向かって煙を吐いて、またタバコを咥える。  星野の目線は空からコンクリートの道路へ。 「俺さ、夕方の空とか影とか色とか音とか、超苦手なんだよね。なんか普通に切ねーじゃん?」 「…まぁ、小さい頃は友達と別れたりして嫌いだった気がします。」 「特に屋上とか、青春っぽいとか言うけど、駄目だわ。」 「うちの学校は非常時以外は立ち入り禁止だから登ったことないですけど。」 「あと江川にサイダー飲んで欲しくないんだなぁ……。」 「他人の嗜好にケチつけ………先生?」  星野は静かに、涙を流していた。ズズ、と鼻をすする音とジリジリとタバコの火が燃える音が江川の耳に嫌に残る。 「俺さ、バツイチじゃん?元嫁にさ、言われたわ…あんた、私のこと好きじゃないでしょ、って。」 「………はぁ。」 「マジで当たってたんだよね、それが。何にも言い返せなくて黙ぁって判子押したよ。ダッセェよな、もう20年経とうとしてんのにな。」 (サラサラな長い黒髪、細い身体のクセして、意地っ張りでクソ真面目で、サイダーばっか飲んで、帰り道はいっつも馬鹿みたいに笑っていたよ。) 「俺が人生で本気で好きになった奴、今のお前にソックリなんだよ。」 「……え⁉︎男ですか⁉︎」 「バーカ、女だよ。外見じゃなくて中身だよ、中身。」 「なんだ、中身か……あービックリしたぁ。」  驚いた江川はまたサイダーを飲んで落ち着いた。  星野はまた空を見上げた。タバコの火もジリジリと燃える。

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