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ホシノ先生の回顧⑥

「都会って案外ちゃんと星も月も見えるもんだな。」 「あー……でも、昔旅行で沖縄行ったことありますけど、やっぱそういうとこと比べたら見えないかなーって思いますよ。」 「こんなに空が見えるとさ、俺がこうして生徒脅して屯して愚痴ってんのも見られてっかもな。」  太陽が、赤く世界を照らして、涙が光って、少し笑ったその人は、赤い赤い太陽に呑まれていくように。 「………それ、死んだ人とかですか?」 「……人のことばっかで、自分と向き合ったらさ、勝手に自分を追い込んで、1人で溜め込んで……それで(しま)いだったよ。」 「……その人が忘れらんなくて、奥さんと離婚した、と。」 「情けねぇけど、そゆことだ。」 「で、その人と俺が似てるから心配してくれてる、ですか?」  江川は気が抜けたように笑った。あはは、と。 「大丈夫ですよ、俺は。だって、嘘ついたら先生にはバレるし、それが大竹にバレたらクラスの連中に知られるし、あいつら馬鹿なのに超お節介だし、真面目をいじるし。」  似ているけど、違う人間で違う環境で、違う世界で生きている。 (そんな当たり前のこと、酔っ払うと忘れちまうな。) 「でも、自分と向き合うのわかんなくなったら……先生が、俺を助けて下さい。」  笑顔が、急転して不安に伏せる危うさが江川にもあった。  星野はその表情(カオ)に、心臓を掴まれたような感情を覚えた。 「当たり前だろ。」  星野は笑った。  夕陽のつらい懐古は、いつの間にか心の中から無くなっていた。

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