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ツワブキさんに好敵手?⑦

「えっと……な、名前…。」 「あ、そっか。俺、若月っていうんだ。」 「わ、若月くんは……智裕くんが、野球強かったの…知ってた…?」 「え⁉︎ツワブキちゃん知らないの⁉︎松田(あいつ)すげー有名だったんだぜ!ちょっと待ってて……。」  若月はポケットからスマホを取り出して、なにかを探し始めた。するとすぐにそれは見つかったようで、画面を拓海に見せた。 「ほら、これ去年の練習試合の動画。」  ピッチャーが投げて、ズバン、という激しい音が鳴る。画面越しでもその音の威力に圧倒されそうだった。審判の「ストライク!」という声で周りのギャラリーが歓声を上げる。  すると画面はピッチャーにズームされて、その顔がハッキリと映る。  それは智裕なのだが、まるで別人だった。バッターに向ける目線は射殺すような鋭さがあり、整える呼吸の仕方は桁外れの集中力を窺わせる。  拓海が初めて見る智裕の顔だった。 「な?すげーだろ?今のヘタレから想像出来ねーよな。」 「……俺、知らなかった………左腕のことも、星野(ほしの)先生から聞き出して……智裕くんからは一度も……。」 「あー…もしかしてさ、手術の(アト)、見ちゃった感じ?」 「俺は、自転車でコケたって嘘つかれた……だから昔のことは、智裕くんにとって触れられたくないことって……思ってたのに……思ってたのに………。」  智裕は水上にアッサリと話していた。  拓海には嘘をついて隠して、なかったことにしていたのに。 「俺、全然智裕くんのこと……知らない……水上くんには楽しそうに……話してて…俺に気づいたら……どっか行っちゃって……智裕、くん……うぅ…。」 「あちゃー、松田やらかしたなー。そりゃツワブキちゃんも不安になる……てゆーか水上って誰だよ!」  思い出してまた泣き始めた拓海を若月は背中をさすって慰め続けた。

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