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オオタケくん争奪戦⑥
あれよあれよと言う間に、智裕は流れに流されて普段野球部が使っている練習コーナーに立たされてしまった。
5組の全員はもちろん、騒ぎを聞きつけた野次馬も多く見学する。
「えっと……ストラックアウトって……あんな遠いっけ?」
「何を言ってるんですか。18mですよ、ピッチャーとキャッチャーの距離ですよ。ここが線です。」
「てゆーか的が空き缶3つとかどんだけハードモードなんだよ!」
「正確なコントロールの持ち主こそ、大竹先輩に相応しいです。」
「いや大竹カンケーなくない⁉︎」
「では僭越 ながら俺が先攻で投げます。」
「気持ちいいほどスルーされたー。」
直倫はピッチャーマウンドのプレートの位置について、バッターボックスの所に置いた空き缶に対して身体は右を向け、目は的を集中して見ている。
「赤松って……ピッチャーなのか?」
「いや、知らん。」
裕也と江川は最前列で見ながら疑問を口にすると、後ろから割って入る男子がいた。
「赤松はセカンドだよ。ピッチャーなんか1度もやったことない。」
「お、1組の清田 じゃん。」
「お前そういや野球部だったっけ?」
清田を見て裕也と江川が反応すると、清田は裕也を見おろしてギロリと睨んだ。
「大竹、あいつは純粋で可愛い後輩だ。あいつのことは応援したいと思っている、が、お前のしたことを俺はまだ許してねぇから。」
「………はっ!お前らの方がよっぽどゲスいことしてんじゃねーか。トモの左腕を奪っておいてさ。」
「お前さ、絶対赤松の気持ちを茶化すんじゃねーぞ。あいつ、ストラックアウトで松田を負かすって言ってから残って投球練習してたんだ、俺も引くほど真剣にな。」
「……はぁ?」
「だからお前も真剣に赤松と向き合えよ。じゃなきゃマジでシメっから。」
清田の目は本気だった。それに肩を震わせて裕也は直倫の方を見る。
セットポジションにつく直倫の顔は、あの頃の智裕と同じようだった。
カーンッ
赤松は3球投げて倒した空き缶は2本だった。ギャラリーは「すげー!」などと口々に言い騒ぐ。
その風景を目の当たりにした智裕は完全にアウェーで凹んだ。
「もうこんなん無理だっつーの!」
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