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オオタケくん争奪戦⑧
拓海は人混みになっている後ろにポツンと立っていたら、誰かに背中を強く押されて、背の高い誰かの背中にぶつかった。
「いたっ!ご、ごめん!」
「いえ……って先生?なんで…。」
「えっと…あの連れてこられて……あれ?」
拓海を連れてきた張本人 の姿はなかった。
拓海は困惑してキョロキョロしていると、江川に腕を引かれた。
「このチビ猿の案件に巻き込まれて、今からあいつが投げるから。」
「大竹くんの案件?え?どうしたの?」
「いや……なんというか……ツワブキちゃん、ごめん。」
大竹はいつもの元気がまるで無かった。
そんな大竹を心配そうに見つめてしまうが、江川に促されてグラウンドの方を見ると、そこには困惑しながら立ち往生している智裕がいた。
「松田ー!もう観念して投げろー!」
「早くしろよー!」
グズグズしている智裕に業を煮やしたクラスメートが「投げろ!」と囃し立ててしまう。智裕は諦めて体力測定のソフトボール投げの時のような体勢で、軟球を右手で投げた。
そしてそのボールは的にも届かずにバッターボックス手前でワンバウンドした。
「松田ー!お前アイドルの始球式かー!」
「女優のさとみちゃんも届いてたぞー!」
「だって俺素人だもん!しょーがねーじゃん!」
(あれ?野球…全日本代表だって……でもいつもの智裕くん…?)
先日、若月 に見せてもらった動画の人物とはまるで違う、拓海の知る智裕だったことに少し拍子抜けてしまっている。
すぐ近くにいた宮西も江川も呆れたようなため息を吐いた。
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