137 / 1000

オオタケくん争奪戦⑨

「やっぱりな。」 「そう言えば、松田って天才型だったから右はクソだったんだよな…。」 「……バカヤロウ……。」  怒りのつぶやきをしたのは、拓海の知らない男子生徒だった。拳をギリギリと握り、しかし悲しそうな顔にも見えた。 「赤松って内野手なのに何で捕手(キャッチャー)の清田が面倒みてんの?」  珍しく宮西が下ネタ、下世話ネタ以外で長文の言葉を発した。  ()かれた清田は拳を(ほど)いて、智裕を見ながら答えた。 「俺、4月からサードに転向したんだよ。」 「……キャッチャーでスタメン狙ってたのに?」 「俺は松田智裕の球を受けたかっただけなんだよ。あいつがいないなら俺はキャッチャーにこだわる理由が無くなった。」 「……重っ。」 「うるせーよ。」 (この人も、智裕くんに影響されて……動かされた………一体、本当の智裕くんって……。)  拓海は、ズン、と急に心臓が重くなる。何故だかとてつもない不安の波に襲われる感覚だった。

ともだちにシェアしよう!