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オオタケくん争奪戦⑨
「やっぱりな。」
「そう言えば、松田って天才型だったから右はクソだったんだよな…。」
「……バカヤロウ……。」
怒りのつぶやきをしたのは、拓海の知らない男子生徒だった。拳をギリギリと握り、しかし悲しそうな顔にも見えた。
「赤松って内野手なのに何で捕手 の清田が面倒みてんの?」
珍しく宮西が下ネタ、下世話ネタ以外で長文の言葉を発した。
訊 かれた清田は拳を解 いて、智裕を見ながら答えた。
「俺、4月からサードに転向したんだよ。」
「……キャッチャーでスタメン狙ってたのに?」
「俺は松田智裕の球を受けたかっただけなんだよ。あいつがいないなら俺はキャッチャーにこだわる理由が無くなった。」
「……重っ。」
「うるせーよ。」
(この人も、智裕くんに影響されて……動かされた………一体、本当の智裕くんって……。)
拓海は、ズン、と急に心臓が重くなる。何故だかとてつもない不安の波に襲われる感覚だった。
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