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マツダトモヒロの覚醒②
智裕は右手に持っていた軟球を左手に持ち替え、的に向かって真っ直ぐ向いていた体を左に向けた。
智裕の右側にいた直倫 はその背中を見た途端、動けなくなった。瞬 きすらも封じられるよう。
(思い出した……この投手、この出で立ちだった。画面の向こう、スタンドから見た、俺が憧れた…。)
1つ呼吸をすると、並んだ空き缶を射殺すように見つめ、左足を後ろに、手を胸に、右足を上げて、しなやかなスリークォーターの投球。
グラウンドにカーン、という鋭い金属音、後にフェンスに激突するガシャーンという音が響き渡る。
的にしていた3本の空き缶は全て倒れていて、1番左側の空き缶はベコベコに凹んでいた。
「はぁ……。」
投げた本人はリラックスする為のため息を吐く。
間近で見ていた直倫は圧倒されすぎて全身が震えてしまった。ギャラリーも唖然として沈黙。
拓海は、全く知らない人を見るように、智裕を見つめる。
(え……あの人…智裕くん……なんだよね?)
ただ1人、にこやかにしているのは水上だった。
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