143 / 1000

マツダトモヒロの覚醒⑤

「また逃げんのかよ!バカ!ヘタレ!」  智裕たちがいた場所から、女子の高い怒鳴り声が聞こえた。そして、1人の女子生徒が走って拓海を横切った。 (あれは…高梨さん?)  拓海は智裕たちがいる方に振り向くと、クラスメートに囲まれている智裕が泣き崩れていた。  水上の言葉に嫉妬と痛みを受けて拓海は自分のことで精一杯だった。そんな間にも、智裕はあんなになってしまっていた。 「石蕗先生!」 「増田(ますだ)さん…。」  拓海に駆け寄ってきた増田は、今にも泣きそうな顔をしていた。 「先生……高梨さん、お願いしてもいいですか?」 「え…。」 「私、あんまり詳しくないから……その、今の高梨さんに……何て言ったらいいのか分からなくて……。」  増田越しにもう一度智裕たちを見ると、いつも明るくて仲の良いクラスが、とんでもない負のオーラを放っていることが一目でわかる。 「増田さん、高梨さんは俺が話をするから……みんな、落ち着くんだよ。」 「はい……お願いします…っ!」  拓海は走って校舎に向かった。

ともだちにシェアしよう!