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マツダトモヒロの覚醒⑥
まず、2年5組の下駄箱を確認するが高梨はまだ外にいるようだった。
「石蕗先生、どうしたんですか?」
「星野 先生!あ、あの、今すぐグラウンドへ行ってください!」
「あぁ、なんか凄い騒ぎになっているみたいでしたど。」
飄々 とする星野に対して拓海は必死だった。星野の服を掴んで、背の高い星野を見上げながら頼みをする。
「お願いします!と、智裕くんが、みんなが、泣いてて…それをどうにか出来るのは先生しかいないんです……!」
大切な人を他の人に任せるしかない状況で、ふと水上の自信に満ちた言葉が脳裏に過ぎる。
『同じような境遇だからこそ、俺は支えになれると思ってます。』
(ああ…今の俺は寄り添える自信がないからこうして他人に頼んでしまっている。こんなことで、俺は智裕くんのそばにいてもいいの?)
泣きそうになるが、自身の気持ちよりも増田の苦しそうな顔を思い出して頭を振り、拓海は今やるべきことを再認識する。
拓海に掴まれ困惑していた星野は、外へと目を向けると、なんだか異様な雰囲気になっている集団を見つけた。あれが自分の受け持ちの生徒たちかもしれない、ということなら。
「あーあーあー、ありゃ学級会議かもなー…ったく、あいつらホンットにお人好しなのかお節介なのか…。」
呆れたように溜息を吐いて、星野は拓海の両腕を取って自分から引き剥がした。
「石蕗先生は、何をそんなに急いでいるんですか?」
「えっと、高梨さんがどこかに逃げちゃって……。」
「あー、高梨なら多分校舎裏辺りにいると思いますよ。あいつの泣き所、とでも言いますか……。」
「そうですか。」
「ご迷惑おかけしますが、高梨をお願いします。申し訳ないですが、あとでお互い報告をしましょう。高梨は落ち着いたら帰宅させて下さい。」
「わかりました。」
拓海は教諭の顔になって気を引き締めた。
今は智裕のことは星野に任せることが教諭としての最善の判断だと言い聞かせた。
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