145 / 1000

マツダトモヒロの覚醒⑦

 星野に言われた通りに校舎裏に行くと、膝を抱えて泣いていた女子生徒がいた。 (ついこの前、俺が若月くんにここで慰められたんだよね…。) 「高梨さん。」 「……ツワブキ、ちゃん…。」  拓海は高梨の隣に腰を下ろした。高梨は懸命に涙を拭う。 「……俺は何も知らないから、話を聞くだけしか出来ないけど、それで高梨さんの心が楽になるなら、悲しいことや怒ったこと、全部話してみてくれる?」 「ツワブキちゃん……ごめんね………ごめん、なさい。」  高梨の背中をさすりながら、拓海は黙って、高梨からの言葉を待った。  高梨は益々泣きながら、言葉を紡ぐ。 「私ね、松田のこと……ずっと昔から好きなんだ……だから、だから…あんな情けない姿、見たくなかったから……。」  拓海は高梨の告白にまた心臓を掴まれたような気持ちになるが、慰めることはやめなかった。 「……小学生の時から…ずっと本当は松田が好きだったけど……あいつは天才で…ずっと野球ばっかで、遠征で学校休むこと多かったし……国際試合なんか…テレビで見て……私なんか…って思ってた。」  高梨の言葉が、拓海には鋭利なナイフのようだった。  高梨の智裕への想い。本当に好きだからこそ怒鳴ってしまったという後悔。 「ツワブキちゃんから松田こと横取りする気はないし……でも…好きだから……ずっと逃げ続ける松田を……見たくない…からぁ……。」 「高梨さん……。」  包み込むように拓海は高梨を抱きしめた。 (俺は……智裕くんのことを想って、こんなに涙を流せる?本当に智裕くんのこと、考えてる?俺は、今が居心地が良いから…?どうして俺は、智裕くんが好きなの?)  拓海の頬にも涙が伝う。 「高梨…さん……ごめんね……俺…智裕くんを…全然知らないくせに……。」 「ツワブキ、ちゃん…?」 「俺は……。」 (智裕くんの隣にいる資格なんて、ないのかもしれない……。)

ともだちにシェアしよう!