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マツダトモヒロの覚醒⑨

「それは嘘じゃない!松田くんは本当に投げられなかったんだ!」 「野村(のむら)…?」  訴えたのはいつも智裕イジリを傍観するグループにいるメガネをかけた野村克樹(カツキ)だった。  野村は唇を震わせて、言葉を続けた。星野は野村のほうを真剣に見る。 「俺、去年の10月に松田くんが治ったっていうから、キャッチボールと投球練習を頼まれたんです。」 「野村って野球やってたっけ?」 「中学で辞めた。俺、リトルリーグで、松田くんがプロのジュニアチームいくまでバッテリー組んでた。だから俺に頼んできたんだ…ね、松田くん。」  野村が智裕の方を見ると、智裕は下を向いて泣いていた。野村も目頭が熱くなってくるが耐えて星野を見続けて訴える。 「松田くん、確かに腕の状態は元に戻ってたけど、制球はめちゃくちゃだったし球威も無くなっていた。多分、イップスでした。」  スポーツのことに詳しい生徒たちはざわついた。そして智裕は左腕を(かば)うような仕草をする。 「松田くんは…っ!5組(おれたち)がお節介だからきっと自分のことを考えてくれるだろうって、そんなことにもう時間を使って欲しくないからって俺に黙ってて欲しいって…松田くんは…。」 「もういい、野村。ありがとう。」  星野は野村の肩を優しく叩いて座らせた。

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