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拡散されるマツダくん⑧

 連れられてきたのは社会科準備室だった。  ほぼ倉庫で誰も使わないので埃っぽくて、拓海はくしゃみをする。カーテンも閉められている密室で、星野と2人きりになるので妙な緊張で体が堅くなる。  呼んだ星野はポケットからスマートフォンを出して、何処かに電話をかけていた。  スピーカーモードにして、拓海にも聞こえるようにした。  プルルルル、プルルルル 『はい、松田です。』 「あー松田?オレオレ。」 『あ?オレオレ詐欺?古くね?』 「お前は担任の声もわかんねーのか、バカだな。」 『え⁉︎ほっしゃん⁉︎マジで犯罪者かと思った!』 「てめー明日覚えてろよ。いやー、学校でもお前のせいで大ごとになってるわー。めんどくせーんだよ、責任とれ。」 『いや、俺被害者だってさっき言ってたよね⁉︎何で怒られんの⁉︎』 「お前が左で投げたからこんなことになったんだろーが、死ね。」 『うわ!教師の暴言だ!訴えてやる!』 「やれるもんならやってみろヘタレ。」  電話口から聞こえるのは、智裕のなんら変わりない声だった。その声を聞いただけで、拓海は安心して泣いてしまった。 「お前さ、起こした時に恋人の名前なんか呼んでたよなぁ。イイ夢見てたんじゃねーの?俺気になっちゃってさぁ、教えろよ。」  星野はニヤニヤしながら問い詰める。拓海はまだ泣いている。 『だから言ったじゃん!拓海さんが俺のチンコ舐めてくれたっていう男として最高の夢だろ!』  そんな最低な智裕の発言で、拓海は涙が止まり急に真っ赤になって顔を隠した。 「へー、まだ石蕗先生にフェラしてもらえてねーのか、さすが御粗末なガキだな。」 『俺はまだ成長期なんだよ!』 「お前、成長したら俺のマグナム超えられると思ってんの?」 『ーーーーっ!』 「だ、そうですよ、石蕗先生。いやー、こんな思春期のガキが相手じゃ苦労しますね。」  星野はニヤニヤ顔から優しい笑顔に変えて拓海を見た。拓海も顔を上げて思わず笑ってしまう。 「ほんと、苦労します。」 『ちょっと!え、拓海さん⁉︎』 「今さー、俺とお前の拓海さんが社会科準備室で2人っきりなんだわー。」 『ちょっと待て!ちょっと!ほっしゃんやめろー!絶対手ぇ出すなよぉ…絶対だぞ!拓海さん逃げて!ほっしゃんのマグナ』  星野は通話を強制終了した。そして拓海に向き直した。 「ま、あいつはこんな感じですよ。今も母親に家事押し付けられた分やって宿題もたんまり与えてますので、大丈夫ですよ。」 「どうして……こんなことを…。」 「今から生徒をケアしないといけない石蕗先生が不安そうな顔をしていたからですよ。」 「あ……。」 「さ、俺たちも仕事を始めましょうかね。」 「星野先生……ありがとうござます。」  拓海が深々と頭を下げると、星野はその頭をポンポンと優しく触れた。

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