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拡散されるマツダくん⑩
「先生……俺が…まっつんに投げさせたせいなのかな…?」
水上は自分を責めるように下を向いて涙を流した。
「そんなことないよ。これは安易な気持ちで勝手にネットに上げた人が悪いんだから、水上くんが責められることはないんだよ。」
拓海はしゃがんで水上を覗き込むようにして、水上の両の手を優しく握った。
「そうなのかな……俺はただ単純に…まっつんが左で投げられると思ったから……なのにこんなことになって…。」
「水上くんは、松田くんが出来ると思ったから…言っただけでしょ?投げたのは松田くんの意思だよ。だから水上くんは何も悪くない、そう思うよ?」
「うん……先生………でもさ、俺……怖いんだ。」
涙を拭いながら水上は顔を上げて、不安そうな表情を拓海に向ける。
「もしかしたら、まっつん、野球また始めたら…せっかく同じ高校入ったのに…また遠くなっちゃいそうだよ。」
「……遠くなっちゃう?どうして?」
「だって、まっつんが本気出したら……それこそ国際試合とか、色んな代表に選ばれるの分かるし……こんなんじゃまっつんにアタックする時間無くなりそうだなって。寂しいよね。」
(智裕くんが、本気を出したら……なんて……。)
どことなくまだ不安な水上は無理に笑顔を作り、それを見る拓海も辛い気持ちになるが気丈に振る舞い堪えた。
「まっつんにちゃんと謝んなきゃな……先生、また落ち込んだら話聞いてくれる。」
「え…と………わかったよ。水上くん。」
「先生。ありがとう。」
水上は元気を取り戻した様子だったので拓海はホッとしたが、心臓が大きく打った。水上はいつの間にか保健室から出て行ってた。
ドクン ドクン ドクン
(智裕くんが…遠く、なる……。)
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