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拡散されるマツダくん(12)

「えー、私はこの4月から野球部の監督を任されている森だ。君たちが去年の暴力事件以降、野球部に対して大変な不信感を抱いていることは重々承知している。」  少しざわついたが、森の威厳でまた空気は重くなる。 「先程、学校に連絡があった。松田智裕を今年の10月に開催される国際選手権大会に向けての日本代表候補にと、正式なところから要請があった。そこで、私は松田を説得し野球部に復帰させるつもりだ。」  一気にざわざわとする。星野も豆鉄砲を食らったような顔をする。  しかし、すぐさま江川が反論する。 「申し訳ありませんが、俺は反対です。」 「なぜだ。」  森も少しだけ顔をしかめ、クラスの殆どが怯むが、江川は引かなかった。 「松田が怪我したのも、イップスになったのも、全て部員の妬み嫉みの一方的な行動が原因でした。なのにそんな信用できない組織にまた松田を入れることは更に彼を傷つけることになるんじゃないかと思います。」 「そう言われるのはもっともだ。しかしその責任を問われて去年までの監督、顧問、関わる大人は全て一新した。部員も関係した者は退部してもらった。」  どんどんと強い口調になっていく森に、クラス全員は圧倒されていく。 「俺はエース松田智裕を復活させてみせる。そして松田がやりきったと思える時まで俺は松田という選手を大事にする。それは君たちと約束する。」  江川は森の目をじっと見る。つられるように宮西も森のことを睨むように見る。他の男子はハラハラしながら動向を見守っている。 「以上だ。時間をとらせてすまない。」  森は一礼をして、教室を出て行った。

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