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遠くなるフタリ⑤
飛び出した智裕はとりあえず保健室の前に来たが、まだドアは施錠されたままだった。
(そうだ…今は先生たちの朝礼か……もう少しだけ待ってれば少しは話せるかもな。)
智裕は廊下の窓にもたれかかって、待つことにした。
(会ったら何て言えばいいかな。ゴメン、か、会いたかった、か…あーでも拒否られたらマジ凹むしなぁ……。)
悶々と考えていると、すぐ近くから声をかけられた。
「まっつん?何してんの?」
智裕のことを「まっつん」なんて呼ぶ人は、この高校では1人しかいない。
「水上 じゃん。お前も何してんの?」
「俺日直だからクラスの健康表取りに来たんだよ。」
「へー、俺日直でもそんなんあるの知らなかったわー。」
「女子が一緒だとやってくれたりしてるでしょ?絶対怒られるぞ。」
「もう既にズタボロに怒られなれてっから。」
水上は智裕が野球部に復帰した時に、あの騒動のことで謝罪をした。
その後2人は連絡先を交換して、学校ですれ違えばなにかと話すようになった。
「そういやさ、女子チームの和佐 さんがさ、めっちゃいいスプレータイプの湿布教えてくれたんだよね。」
「和佐って去年の世界選手権の女子代表の人か⁉︎」
「そうそう。俺、結構仲良し。」
「いーなー!あの人めっちゃスタイル良くて可愛いよな…こうお姉様って感じで!」
「まっつん、相変わらずお姉様系大好きだな。」
アスリート同士だからこそ智裕も水上には話しやすいこともあった。
ストレッチやトレーニング、食事のこと、今の智裕にとってはとても助かっている情報を水上は教えてくれる。
「あれ?まっつんさ、このデコの生え際んトコ、めっちゃ赤いんだけど。」
「え?」
「この辺。」
水上が指で押すと、痛みが走る。
「いて!これさっきのヨーコさんのやつだぁ……。」
「うわー、ちょっと見せて。」
水上が顔を近づける。妙に近かったが智裕はとぼけた顔をした。
水上は確信犯だった。
智裕の後ろに、拓海がいた。
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