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遠くなるフタリ⑥

 拓海は、その光景を見て動けなくなっていた。 「水上?顔近すぎじゃね?」 「だって俺コンタクトだもん。」 「じゃあ見えろよ。」 「まっつん、先生来たよ。」  水上がそう言って後ろの方を指すので智裕はすぐに振り返った。何故か固まってしまっているが、そこには間違いなく久しぶりに見た恋人がいた。  智裕が拓海の方を向いた時、水上は拓海を見ながら怪しく笑い、指を唇に当てる仕草をした。その顔に、拓海は不安と恐怖を覚えた。 「た、ツワブキ先生。デコめっちゃゲンコツされたんで冷やしたいんですけど。」 「………あ……。」 「………先生?」 「あ、もうホームルームの時間になるじゃん。まっつん、。」 「おーう…じゃーな。」  水上は足早に去って行き、智裕には聞こえないような声で拓海に通りすがりに囁く。 「悔しい?」  拓海はすぐに水上の行った方を振り向いたが、水上の姿はなかった。

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