169 / 1000
遠くなるフタリ⑥
拓海は、その光景を見て動けなくなっていた。
「水上?顔近すぎじゃね?」
「だって俺コンタクトだもん。」
「じゃあ見えろよ。」
「まっつん、先生来たよ。」
水上がそう言って後ろの方を指すので智裕はすぐに振り返った。何故か固まってしまっているが、そこには間違いなく久しぶりに見た恋人がいた。
智裕が拓海の方を向いた時、水上は拓海を見ながら怪しく笑い、指を唇に当てる仕草をした。その顔に、拓海は不安と恐怖を覚えた。
「た、ツワブキ先生。デコめっちゃゲンコツされたんで冷やしたいんですけど。」
「………あ……。」
「………先生?」
「あ、もうホームルームの時間になるじゃん。まっつん、またねー。」
「おーう…じゃーな。」
水上は足早に去って行き、智裕には聞こえないような声で拓海に通りすがりに囁く。
「悔しい?」
拓海はすぐに水上の行った方を振り向いたが、水上の姿はなかった。
ともだちにシェアしよう!