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さようならツワブキさん④

 智裕の動画流出騒動の3日後、嘘のように騒ぎはおさまった。  職員朝礼、野球部の顧問である(もり)から全職員に報告がされた。 「2年5組の松田智裕の入部届けを受理しました。本人とも面談し、これ以上学校や生徒に迷惑をかけられないという松田の意思を汲み、私と教頭の立会いの下、本日の部活動中にテレビ局の取材を受けることにしました。」  智裕が執拗に追い回すマスコミや野次馬から生徒を守るために矢面に立ったということだった。  その翌日からの新聞やウェブニュースに乱立する智裕に関する記事がそれを物語った。  そして拓海は星野に呼び出された。 「これから松田は注目されてきますので、交際には一層注意してください。」  拓海にもわかっていたことだったが改めて警告されると胸が痛んだ。  見計らったかのように智裕には全く会えない日々が訪れた。会えないどころか姿も、声も、何もかもに触れられなかった。  そしてあのニュース番組の特集。  画面の向こうの智裕は、拓海の知る智裕ではなかった。会わない間に坊主にしていて、女子アナに対してハキハキと対話し、礼儀正しい模範的な高校生だった。  離れてしまった、と拓海は心臓を掴まれたような恐怖に襲われた。  笑顔でいても子供にはその負の感情が伝わった。  娘の茉莉(マツリ)は「はあ」と溜息を吐く拓海に、「よしよし」と頭を撫でたり、無邪気にタックルして、大好きな父親を慰めようとしていた。  その度に拓海は心が痛くなる。  茉莉の言動で全く満たされない、自分の愚かさ。その罪悪感でいっぱいいっぱいだった。

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