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さようならマツダくん⑦

 ズバンッ  グラウンドの隅で18m離れた智裕と清田は、ひたすら投球練習をしていた。しかし放課後の部活のことを考えて清田はセーブさせる。 「はーい、10球。ちょっとダウンしよう。」 「ういー。」  マスクを外して清田は水を飲む。智裕も汗を拭い、左腕をクールダウンさせる柔軟運動をする。  清田は水を飲みながら智裕に近寄る。 「松田、俺が提案しといてなんだけど、やっぱ高校では無理な気がしてきたんだよな。」 「でも投げられそうなんだよな…うん。」 「………松田、なんかあった?」  清田は球を受けながら智裕の様子がおかしいことに気がついていた。  変化球はともかく、得意とするストレートのコントロールが明らかに乱れていたからだった。 「あれじゃ暴投してもおかしくねーぞ。」 「悪いな、もうちょい集中する。」 「……なんかあったら言えよ。一応俺はお前の女房役だし、お前になんかあったら俺まで監督にどやされちまうからな。」  清田は智裕の右肩をポン、と叩くとまた定位置に戻って行く。 「言えるわけねーじゃんかよ……。」 (ボール投げて練習している間は忘れられる。もっと、もっと、練習に打ち込んで、授業も集中すれば、考えなくて済む。もっと、もっと強くなる為にも、忘れないと、な。) 「拓海さん、さようなら。」

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