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昔のことを話そう【タカナシさん】⑤
だけど、高校に入ってすぐだった。智裕は彼女を作った。
ピッチャーでエースの智裕、にしか興味のない見栄はり女子だった。
だけど彼女がいる手前、私は智裕と呼ばなくなった。
「松田、4限英語当てられるよ。」
「うえーマジかよ!高梨助けろよー!」
「やだね。自力でなんとかしなさい。」
「江川っちー助けてぇぇぇえ!」
気付かなかった。松田は気付かなかったんだ。崖から落とされた気分だった。
でも彼女とは続かなかった。マウンドを降りた、私の知っているいつもの松田は彼女たちの理想と180度違ったらしい。
そして別れても松田のダメージは少なかった。
次の日にはケロッとして、大竹とグラビア雑誌とか見ながらニタニタしていた。
だから、今すごく戸惑っている。
マウンドから降りたのに、松田は戻らない。
ヘタレてすぐに調子に乗って、笑って、ニタニタして、そんな松田が戻らなかった。
逃げるように野球と真剣に向き合っている。
それほどまでに、先生への想いは真剣だったんだと、私は理解した。
先生には敵わない、とっくに白旗も上げている。
だから私は、大好きな松田が幸せになって、また馬鹿みたいに笑って毎日を過ごしてほしい。
それが私の願い。
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