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昔のことを話そう【タカナシさん】⑨
「教師と生徒のいかがわしい交際なんて、たとえ男同士だろうとNGでしょ。まっつんは守られる立場だけど、先生はどうかな?しかもあの人子供いるんでしょ?バレたらヤバくね?」
「そんなこと……。」
「それにさ、まっつんこれから超注目されるよ?変な話、超ゲスい週刊誌とかマスコミの餌食候補に入るんだよ?それでもいいの?」
水上の言葉は正論でもあった。それは今の高梨に想定できたことではない。常に注目される立場だからこそわかる現実だった。それが高梨にとって悔しい。
「俺はあの人より、まっつんのこと支えて、幸せにできる自信あるし。」
「……だけど松田は、先生のことが本気だからね。」
「俺だって真面目にまっつんのこと好きだから。受け入れられない負け戦だとわかってても諦めきれないからさ。」
真っ直ぐとした言葉を並べる水上を、高梨は否定することが出来なかった。その想いの重さのようなものが肩にのしかかってくるようだった。
「それに別れを選んだのは当人たちでしょ?俺は燃料投下しただけで、それを乗り越えられなかったカップルのことでこんな風に言われるの、すっげー当て付けですよ、高梨センパイ。」
水上は高梨を横切って、その場から立ち去った。高梨は膝を落として、動けなくなった。
「ごめ……ん………智裕……私、なんにも、できなかった………。」
(好きな人を笑顔に出来ない……不甲斐なさすぎでしょ……!)
高梨は放課後教室前の廊下の窓から野球部の練習を眺めて泣いた。
一心不乱に練習をしている、久しぶりの坊主頭を見ることが辛かった。
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