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アカマツくんの目標設定②

「1番、2年、松田(まつだ)智裕(トモヒロ)、ピッチャー。」 「はい!」  呼ばれた智裕は返事をして立ち上がり、森の前まで進んだ。 「今年はお前だけじゃない、全員で戦うが、お前はエースだ。それを忘れるなよ。」 「はい!ありがとうございます!」  まるで賞状を扱うように大事に大事に、1枚の布切れを手にした。そして坂口がホワイトボードの「1」の隣に「松田」と丁寧に書いた。 「2番、2年、清田(きよた)恭介(キョウスケ)、キャッチャー。」 「はい。」  その場がざわついた。  清田はこれまで部内の紅白試合くらいでしかキャッチャーを努めなかった。去年の夏大会以降は内野手に転向(コンバート)しており、キャッチャーとしての経験値は3年生の正捕手に比べると圧倒的に少ない。なのに清田に与えられたのは「2」は正捕手の番号。 「清田は俺らなんかより何十倍も研究して、肩もとんでもなく強ぇんだよ。それに松田のスプリットを捕りきる技術もある。」  そう(さと)したのは、正捕手の大本命だと思われた3年生捕手の今中(いまなか)だった。その言葉で2年、3年の部員は黙った。  そして、3番、4番、5番は順当に3年生の部員が呼ばれる。 「6番、1年、赤松(あかまつ)直倫(ナオミチ)、ショート。」 「……は、はい!」  またも大抜擢だった。今度は全員が驚く。そして呼ばれた本人が1番驚いている。  戸惑いながらも、「6」の番号を受け取る。直倫の手は少しだけ震えていた。

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