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雨嵐の日①

「先生、課題です。とりあえず全員分です。」 「あれ?何で福本(ふくもと)じゃなくて江川(えがわ)?」 「教科係の福本が課題を忘れたからです。」 「うわー、アイツ死刑だわー。」 「じゃあ失礼します。」  1限目が始まる前、一起(カズキ)裕紀(ヒロキ)に公民の課題プリントを渡した。委員長として普通の行動。そつなくこなすと、無駄なことを一切話さずそのまま職員室をあとにした。  _じゃあ俺も立候補しようかな。お前の好きになる人に、さ。  あの日から1週間は経った。  一起の右手は軽い打撲だったので、今は瘡蓋(カサブタ)が残るだけで裕紀が丁寧に巻いた包帯も必要なくなっていた。その傷が癒えたように、一起は裕紀の言葉を記憶から消したかに見える平然な態度だった。 (ま、冗談かと思われるよな、そりゃ。)  賢い一起のことだ、と裕紀は諦めた。

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