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雨嵐の日③

 始業のチャイムが鳴る前に教壇に着いたら、予想通りに生徒たちは浮かれていた。 「お前らなぁ、言っとくけど午後から自宅学習だからな。」 「ほっしゃーん、せっかく楽しくなってたのにさぁー。」 「うるせーよ。」 「ほっしゃんだって昼から酒飲めるじゃん。」 「毎週飲んでっからいいよ別に。平日は飲まねーの。」 「えー!いっがーい!」  どうしてだか裕紀は体育会系の酒豪のイメージが付きまとっているようだった。あと、大食漢。  いくら体格が大学時代と遜色ないとは言え、35歳の中年男性だ。胃袋も肝臓もほどほどにしないと人並みに悲鳴をあげることになる。 「県大会も近づいているが、部活動も今日は全て中止だ。わかったな、清田(きよた)。」 「なんで俺名指しされんの?」 「教科書じゃなくて週刊野球マガジンを開いてノート書いてる奴のセリフじゃねーな。」  割と教壇から近くの席なのに清田は堂々と内職を試みようとしていたので裕紀は釘を刺した。  ここ1週間程、清田は授業中に隙あらば部活動に関する研究をしていた。 (しっかしあれはヤバイな……あの研究量と洞察、さすが3年蹴落として正捕手になっただけあるな。)  叱責しながらも事情を知る裕紀は彼に感心していた。 (女房役がこうなら、ホームルームにはエース様にも言い聞かせねーとこんな嵐にロードワークでもやりかねないな。)  心にそれを留めて始業のチャイムが鳴り授業を始めた。

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