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雨嵐の日⑧

 シルバーの5人乗りの車、オシャレでもない普通の国産車、これが裕紀の通勤手段だった。  助手席に座った一起は妙に緊張していた。 「車通勤なんですね。」 「電車は直通ねぇしな。割と近いのにアホみたいに乗り換えすんのも面倒だろ?」 「まぁ、そうですね。俺は石蕗先生しか見たことないんで、なんとも言えませんが。」 「あの人ってチャリ通だよな。子供乗せるやつ。」 「そりゃ子供いるからそうなりますよね。」  一起があまり知らない車窓になってきた。どうやら隣町に入ったようだと理解した。  窓を眺めても、今日は雨に邪魔されて景色はよく見えない。ワイパーは最大速度で動かしても間に合わないくらいだった。 「うへー…これまじでやべーな。ファミレスやってんのか?」 「やってますよ。俺だって台風の日にバイトしましたし。」 「勤労学生だなぁ、感心するよ。」  どうにか目的地に着いて、バックモニターを見ながら駐車するが、車窓は雨で何も見えないほど激しい天気になっていた。 「ちょっとおさまってからじゃねーと、目と鼻の距離でびしょ濡れだろこれ。」 「そうです、ね。」

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