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雨嵐の日⑨
一瞬、薄暗い車内が光った。そして轟音。
「すっげー雷だな……。」
「………そ……です……ね。」
一起の返事は声が震えていた。外を眺めていた裕紀はその声で一起を見た。一起は膝の上で両手を握り下を向いて、肩を震わせていた。
またピシャーン、と鋭い雷鳴が聞こえると一起は「ヒィッ!」と怯える。
「………江川、もしかしなくても雷、嫌い?」
「……そ、です……ね…。」
「……意外だな。」
裕紀は自分と一起を仕切っていた肘掛を畳み、一起のシートベルトを外してやると、震える一起の両手を右手で包み、左手は自分の方へ一起の肩を抱き寄せた。
「落雷の時は車ん中が1番安全だから安心しろ。」
その囁きは一起にとって魔法の言葉だった。冷や汗も、震えも、溢れかけた涙も、すべてがスーッと引いていく。
だけど、心拍数は、変わらない。
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