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マツダくんの本音⑦
拓海は出そうになる涙をこらえながら智裕に呼びかける。
「智裕くん!智裕くん!お願い!返事して!」
脈は打っているが速い。心臓も動いている。だけど目を覚ましてくれない。
「智裕くん!智裕くん!」
エレベーターが開いたのと同時に救急車のサイレンが聞こえてきた。
「にーちゃん!茉莉ちゃんのお父さん!」
焦るように駆けつけてきたのは智裕の弟の智之 だった。
「智之くん、お父さんとお母さんは?」
「かーちゃん達、まだ仕事で帰ってきてない。それに俺スマホ持ってないから電話番号もわかんなくて…。」
「そうか……救急車来るから、一緒に病院行こう、ね?」
「にーちゃん、大丈夫なの?ねぇ、茉莉ちゃんのとーちゃん、どうしよう……。」
半泣きになってすがる智之を拓海は頭を撫でて安心するように促した。
「大丈夫、大丈夫だよ。すぐにお医者さんに診てもらうから、大丈夫だよ。」
赤い光が入り口を照らすと、すぐに救急隊の人たちが駆け寄る。
拓海は2歩ほど離れて、茉莉を抱っこして落ち着かせる。智之は不安から拓海の服を掴む。
「すいません、どなたか付き添いの方は?」
「はい、私たちが行きます!」
「後ろに乗って下さい。」
拓海は片手で茉莉を抱っこし片手で智之の手を引いて、救急車の後ろに乗った。ストレッチャーに乗せられた智裕が運ばれると後ろの扉が閉まる。酸素吸入をされ、血圧や心拍が測られる。
物々しい雰囲気に智之は涙を流すが声を殺して精一杯我慢している。
救急隊員は懸命に智裕に声をかける。微弱に手が動いていることで命に大事はないという安心はあった。
(智裕くん……智裕くん……こんなのやだよ……智裕くん!)
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