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マツダくんの本音⑨
診察室から松田母が出てきた。
「ただの熱中症と寝不足だって。それに水分と塩分も摂らずに炎天下でランニングしてたから脱水症状……起きたらしっかり叱らないとね。」
松田母は呆れたように松田父に報告する。そして泣いた智之に気がついて、母もまた我慢をしていた息子を労った。
「とりあえず1回家に帰って智裕 の保険証やら取りに行かないといけないし……会社にも明日休みの連絡入れて…。」
「じゃ、母さんは智裕の方を頼む。俺は智之と適当に夕飯済ませて、洗濯と明日の朝ごはんの用意くらいはしておく。」
「そうね、頼むわ……。」
松田父は智之の手を引いてその場をあとにする。
拓海も続こうとしたら、松田母に手を引かれて止められた。
「……石蕗さん、本当にありがとうございます。」
「いえ……大事に至らなくて良かったです。」
「石蕗さん、智裕のそばにいて下さい。」
「へ?」
松田母の突然の申し出に拓海は戸惑った。松田母はモゾモゾしだした茉莉を拓海から奪うように、茉莉を抱っこした。
「ここ2週間は本当に様子が変だったのよ。寝ている時に苦しそうに『拓海さん』ってずっと寝言で呟いていたのよ。」
「あ……あの………俺は…。」
「もうあの子の母親17年もしていますからね、石蕗さんとあの子のことくらい大体察しがついてますよ。」
拓海は罪悪感に襲われた。どんな顔をすればいいのか分からず俯いてしまった。
「ここで身体を休めても、今のままではまた同じことを繰り返すことになります。今この子の心を解かすことは…私や主人では無理でしょう。だから、お願いします。」
いつも明るく振舞っている松田母が苦しそうに拓海に訴える。拓海はその姿を見て、胸が痛んだ。
「………出来る限りの事を、させていただきます……ごめんなさい……。」
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