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オオタケくんの変化③
智裕たちが騒いでいる一方で直倫は少し難しい顔をして裕也から目を逸らした。
裕也はそんな直倫に気がついて、声をかけようとした。
「松田、大竹、古文のプリント埋めたのか?もう昼休み終わるぞ。」
教室に戻ってきた一起が5人の輪に入って、智裕と裕也に発破をかけた。
裕也は声をかけるタイミングを失った。
「今は古文どころじゃねーよ…。」
「清田、何で松田は魂抜けてんだ?」
「敵の内情を知って絶望しているだけだ。おい、さっさとプリントやらねーと江川に半殺しにされるぞ。」
「江川の半殺し」という魔法の言葉で智裕は真面目にプリントと向き合った。
裕也は最早諦めて、清田の持ってた雑誌を見た。
「ほんとに似てるな、お前と兄貴。サイズもほぼ一緒じゃん。」
「俺は……まだまだです。」
「そうかぁ?野手と投手じゃ比較することもねーと思うけど。」
「兄は聖斎のクリーンアップです。」
「二刀流かよ!」
裕也は食い入るように、「赤松直能」の記事を読む。それに対して直倫の心の奥底に嫉妬の炎がぼんやりと出火する。
そんな直倫を察したのか野村が雑誌を取り上げた。
「はい、大竹くんもちゃっちゃとプリント終わらせようね。」
「はいはーい……赤松、この問題ってどーゆー意味?」
裕也がすぐに切り替えて直倫に質問をするが、直倫は立ち上がる。
「すいません、俺も次の授業の準備あるんでこれで失礼します。」
「え?」
一度も裕也の方を見ずに2年5組の教室をあとにした。
取り残された裕也はただポカーンと直倫が去って行った方向を見ていた。
「赤松?なんだあいつ。」
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