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オオタケくんの変化(12)

 日陰になっている壁にもたれて、2人は並んで座った。直倫はパラパラと貸してもらった本をめくりながら話す。 「俺、中学は聖斎の中等部だったんです。だからそのまま兄と同じチームに行くんだと思ってました。実家からも通える距離でしたし、家族もそのつもりだったんです。けど、去年の県大会の準決勝……それが、兄もベンチ入りした聖斎学園と第四高校の対戦でした。」 「準決勝…ってことは……。」 「はい、松田先輩が先発でした。俺は両親と一緒に兄の応援で観戦してたんですけど、そこで松田先輩の圧倒的なピッチングとマウンドでのオーラに魅せられて……俺は、この人と同じチームで野球がやりたいと思いました。」 「それでこんなフツーの公立とか、親は許さないだろフツー。」 「はい。だけど兄は賛成してくれて一緒に両親を説得してくれました。そして独り暮らしになるので、炊事洗濯掃除は一通りこなせるようになったので、なんとか納得してもらいました。」  裕也は自分には絶対無理だと感心するのと同時に自身の日頃の生活を思い浮かべた。  部屋も散らかし放題で勉強はテスト前に一夜漬けでゴロゴロしては母親に叱られ姉に蹴られる。直倫とは比べ物にならないくらいに堕落している、と落ち込む。 「昨日、裕也先輩が兄の記事をすごい見てて…モヤモヤした気持ちにもなったんですけど、俺は兄にはまだまだ敵わないことが多すぎるはずなのに、張り合おうなんて思ったことが情けなくて…それであんな態度をとってしまって…。」 「俺は…お前は兄貴に充分張り合ってもいいと思うけどな。」 「え?」  裕也の言葉に直倫は意外だという反応をしめした。 「だって15で実家出て、ダチもいない街に1人で暮らすとか…俺絶対無理だし。それでも頑張って実力でレギュラー取ったんだし、お前の方が立派だと思う…し。」 (あれ?俺なんでこんなムキになって赤松フォローしちゃってんの?あれ?いつもなら笑い飛ばしてんだけど……これがもしトモや椋丞だったら『100年早ぇよひゃーはっはっ!』ってなるのに…あれ?)  裕也が悶々と考えている最中も、直倫は裕也からのフォローに感激してその一語一句を噛み締めていた。
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