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決勝戦前夜④

「春に甲子園ベスト8まで残った名門の聖斎学園は“二刀流”とも評される赤松直能選手(3年)を先発投手に起用することが分かった。赤松選手は昨年の夏大会でリリーフ起用され、女性ファンの間で“イケメンすぎる高校球児”と人気を博した。今年はチームの中心的存在で準決勝まで全試合スタメン出場(先発投手としては2回戦のみ)。聖斎学園の試合には毎回多くの女性ファンが詰めかけている。」  智裕の胃は益々キリキリと痛む。その苦しむ息子の様子が愉快で仕方がない父であった。 「にーちゃん、明日負けても誰もにーちゃんを責めないから。いろんな意味で。」 「何でこうイケメンとかイケメンとかイケメンとか……イケメン滅べよ……。」 「(ひが)むな息子よ。諦めろ。」 「そうよ、何事も諦めが肝心よ。顔やオーラはどう頑張っても勝てないんだから。」 「親としてその慰め方は正解なの?ねぇ、ねぇ!」  そして家族によって追い討ちをかけられ傷心となった智裕は、無理やりトンカツを胃に流し込み、自室に入るとベッドの上で塞ぎ込んだ。

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