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県大会決勝戦⑥

「赤松、よくやった。」  普段あまり人を褒めない仏頂面の監督が直倫の背中を叩いてそう言った。 「ありがとうございます!」 「今ので掴めたか?」 「はい。次の打席からも対応してみせます。」  直倫がヘルメットとプロテクターを外していると、トボトボと2番打者が帰ってきた。 「松田、投げる準備するぞ。」 「あい…。」  捕手用のプロテクターを着けた今中(いまなか)がすぐさま声をかけると、智裕はヘルメットを脱いで、キャップを被り、グローブをはめた。  そして2人はベンチ前でキャッチボールを始めた。 (打てた……まだ感触が残ってる……ホームランを、あの豪速球をスタンドに運んだ……兄さんの顔、あんま見てないや……。)  直倫は見つめている両手をギュッと握りしめた。 (裕也先輩との約束……ちゃんと、果たせた!早く、早く…裕也先輩に会いたい…!)  四高の攻撃は4番の(ほり)が甘く入ったスライダーを捕らえてツーベースヒットになり、2アウト走者2塁で清田(きよた)が打席に立った。  聖斎のバッテリーは配球を変えてきた。左打者の清田に対して外角の変化球とチェンジアップから入っていく。先ほどの直倫のホームランが効いていたからか、リードが粗い、と清田は冷静に分析する。 (赤松の兄貴…やっぱあの松田(バカ)に比べたら大したことねぇな。甘い球は易々とホームランにしちまえる。)    カキーンッ 「っしゃあー!」  打球は鋭く、バックスクリーンに直撃し、堀と清田は悠々とホームベースまで走っていく。更に2点追加して智裕は援護を貰った。 「松田、こりゃ簡単に打たれたらあとで殴られるぞ。」 「今中せんぱーい…そんなプレッシャーかけないでー!」  情けない声を出して肩を温めているが、たった数分後に智裕は初戦とは比べ物にならないくらいの存在感を発揮することになる。

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