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県大会決勝戦⑧
1回裏、聖斎学園の攻撃。先頭打者が右打ちのバッターボックスに入る。清田は横目で聖斎のベンチとその打者を見て、マウンドに立つ智裕を見た。
(打者と聖斎は警戒してピリピリしている、が、松田に焦りはない。いつも通り天然オーラで相手をビビらせてる。なら最初から相手を徹底的に怯えさせてやるか。)
清田はサインを出して、智裕は頷いてセットポジションに入った。
球場の視線が注がれて、聖斎の応援団とブラスバンドの音が鳴る中、智裕は振りかぶって投げた。
放たれた球は打者に対し内角を抉り、打者は豪速球が身体に当たりそうになるが、それは絶妙にストライクゾーンに入った。
清田のミットに収まる快音が球場に響くと、球審の「ストライク」の判定。打者は一歩も動けなかった。
たった数秒の出来事が、観客にはスローモーション再生されたようで圧倒されている。
『松田、初球はインコースにストレート。サイドスローのような軌道で、145km/h、打者は手を出せなかったですね。さぁ、2球目は何で来るか。』
智裕はひとつ呼吸をして、清田のサインを承諾する。そして振りかぶって投げた。先ほどと同じような軌道で打者もバットを振る。だが手元でガクン、と落ちた。
『2球目は138km/hのスライダー。見事にバットは空 を切った。これは松田智裕、復活を高らかに宣言しているようです。さぁ、2ストライクと追い込まれた聖斎。』
3球目、清田は外角に変化球を要求した。智裕はミットの位置を確認して、打者の顔も少しだけ見て、振りかぶって投げた。
『空振り三振!第四高校、上々のスタートです。』
そしてこの回は三者凡退で聖斎の攻撃は終了となった。
抑えて清田が智裕に駆け寄ってきたが、智裕の目線は3塁側のネクストバッターサークルに向けられていた。
それに気づいた清田がミットで口を隠しながら智裕に声をかける。
「お前打たなくていいから次の回だけ考えろ。4番の赤松兄よりも、5番の栗原 ってゴリラみてぇな奴のが1打席目はやばい。」
「お、おう。あのゴリラやべーな。赤松兄が小動物に見えるくらいのゴリラだな。」
完全に悪口しか言ってないので口を隠す必要はなかった。
「栗原先輩、意外と繊細なんでゴリラゴリラゴリラって言わないでやって下さい。」
「赤松、お前が1番酷いぞ。」
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