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もう1人のマツダくん①

「一昔前、捕手(キャッチャー)は悲惨な選手が多いポジションやった。タックルされるわ、投手は言うこと聞かへんわ、監督にど突かれるわ……俺は今それを痛感しとんねん。」 「へー、(はたけ)も大変やな。」 「アンタの所為や!ハチローさん!」  甲子園の大阪予選は、名門「馬橋(まはし)学院高等学校」の優勝で幕を閉じた。  その日の夜、馬橋野球部の寮の食堂ではベンチメンバーが集められ、決勝戦の映像を見ながら反省会を行なっていた。  液晶テレビの1番近くにいたのは今日のバッテリー、投手は3年の松田(まつだ)八良(ハチロー)、捕手は2年の畠(アキラ)。画面に流れているのは試合終盤の相手の攻撃回。 「ノーサインで球(ほお)ってくんなボケ!何様や!」 「俺様☆」 「部長!この糞チビ八つ裂きにしていいですか⁉︎」  畠は立ち上がって八良を指しながら真ん中の方に座っている部長の金子(かねこ)に訴える。温厚な金子は困った顔をしながら応える。 「うーん…俺もその気持ち共有したるから抑えとけ。ハチローもあかんで。ノーサインで試合であんま投げとらんシンカーを…畠が可哀想やろ。」  どちらもが落ち着くように優しい声で金子は諭すが、八良の態度は一貫して偉そうだった。

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